しかしこの花は美しいと同時に非常に移り気であった。
A・Pが著書『チューリップ』のなかで語っているように「この花にはユニークな性質があり、それが危険なまでに他の魅力を増大させていた。
この花は自分の意のままに色を変えることができるように思われた」。
いったん「色割れ」した球根はそのままであったけれども、畑全体でわずかひとつか二つの球根しかその効果を示さなかったであろう。
これに魅惑された植物育種家たちは誰もなぜ色が突然に変わるかを理解できなかった。
この現象は、他の植物の研究から知られていた遺伝学の法則に従っていないことは確かであった。
色割れした花は単調な色の花よりも元気がなかったので、これがまた球根の値段を高騰させるのに一役買った。
こうして、一六三四年から一六三七年の間に、事態は完全に制しきれなくなり、チューリップ狂が定着した。
「アドミラル・ファン・エンクヒュイセン」という希少な球根は一個五四00ギルダ‐(現在の通貨で約七六、000、000円で売れた。
この値段は、洗練されたアムステルダムの町屋敷一軒分の費用に相当し、また職人一人の一五年分の給料にも等しかった。
チューリップ狂が最高潮のときには、Y・F・Hのような有名な画家に一輪の「色割れ」したチューリップを描いてもらうほうが、一個の球根を買うよりも安かったのである。
初期の栽培者たちは、色割れを促す方法について多くの理論をもっていたが、色割れの原因はすべてウイルスであることを知ることはできなかった。
このごく小さなパラサイトは、色の形成を抑制すると同時にこの植物を弱める。
果樹に住むアブラムシがこのウイルスを広げていたのであるが、果物とチューリップはオランダでしばしば一緒に栽培されたので、感染が定期的に出現するがでたらめさを説明できなかったとしても驚くべきことではない。
このようにウイルスは生き物に侵入して、彼らの細胞を徴用し、それをウイルス生産工場に変えてしまう。
一日か二日後には数千個の新しいウイルスが出現する。
ウイルスは病気を起こすことに余念がないわけではないが、感染によって一般に細胞は弱められるか破壊される。
それゆえ、もし多くの細胞が感染するならば、その効果が表われてくるのがふつうである。
器官の全体が冒されることもあり、もしそれらが生命維持に不可欠で取り替えのきかないものならば、感染は致命的になるであろう。
たとえば、狂犬病ウイルスは脳細胞を破壊するし、エボラは血管の内壁細胞を殺して破滅的な出血を引き起こす。
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